昭和、平成、令和と時代が変われば学校教育の内容も大幅に変わってきます。
例えばかつてはどの学校でも行われていた小動物の解剖やアルコールランプによる加熱といった理科の実験は、価値観の変化などを受けて現在はあまり行われなくなりました。
その一方で、プログラミングや小学校英語など昔はなかった教育要領も新たに取り入れられています。
今回はその中の一つである「金融教育」がなぜ導入されたのか、どのようなことを教えるのかを中心に解説いたします。
金融教育は小中高の教育課程で必修化となっている
文部科学省が2020年に教育課程の基準である「学習指導要領」を改定した際、2022年までに小学校・中学校・高校で金融に関する事柄を授業で教えるよう義務付けました。
道徳や社会といったもとからある科目の授業内容にお金や社会のことを学ぶ部分が追加されるため、金融教育を単独で扱う科目が新しく設けられるわけではありません。
義務化以前にも自主的に金融教育をカリキュラムに入れている学校もありましたが、必修化により現在では原則的に全ての児童がお金について学べるようになっています。
アメリカやイギリスなどでは10年ほど前からいち早く学校での金融教育が制度化されていて、金融や経済の仕組みを学べる官民一体の教育システムがつくられています。
日本は海外に比べて経済や金融に関する物事に馴染みがないため苦手意識を持つ人が多い国といわれることがよくあります。
そうした国民でも小さいころからお金の正しい知識と感覚を身に付けてもらうことで、豊かで幸せな人生と国家全体の経済発展の両方を実現できるよう金融教育が施行されたのです。
教育の現場における金融教育の実情
小学校に入学してからお小遣いをもらうようになる児童が多くなることから、小学校低学年ではお小遣いの使い方を中心に、お金の役割や大切さなどを教わります。
高学年になると銀行や会社や家庭などの間でお金がどのように流通しているのか、経済の基本的な仕組みや計画的な買い物の方法などについて学びます。
中学校では部活動や行事などで生徒自身がお金や学校の備品を扱うことがあることから、所得や生活費など家庭に関するお金の動きについて学習します。
クレジットカードやローンなどの仕組みや、保険制度など社会に出た後に実際に関わる金融の物事も授業で扱うほか、修学旅行や校外学習などで生徒に計画的なお金の利用を体験してもらう試みを取り入れている学校もあります。
高校ではアルバイトを始める生徒もでてくるため、労働に関する内容も金融教育で学ぶようになります。
株券や保険などの金融商品の仕組みや住宅ローンや奨学金の仕組み、政府や金融機関の経済政策、労働や金融に関する契約の注意点、労働者の義務と権利など、自立した生活に必要な社会の知識を重点的に教わります。
金融教育の指導内容として教えられる4つの分野
金融に関する広報活動を行っている金融広報中央委員会では、学校や教員などによって金融教育の指導内容にばらつきが出ないよう、便宜的に4つの分野を定義しています。
① 生活設計・家計管理に関する分野
- お金の有限性や計画的に使う大切さ
- お金に関する価値観と適切に判断する力
- 貯蓄や運用など資産を管理する仕組みと大切さ
- 株や保険などの金融商品の特徴
- 年金など社会保障の仕組みと役割
- 事故、病気、災害に備える大切さと方法
- 日常生活でおこりうる加害や損害のリスク
など
② 金融や経済の仕組みに関する分野
- お金が流通する仕組みや通貨の役割
- 現金と様々な支払い手段の特徴
- 銀行や各金融機関の違いと役割
- 金利や物価の仕組みと景気の動き方
- 証券市場・為替市場の仕組みと役割
- 政府や中央銀行がおこなう経済政策について
- 税金の仕組みと実生活への関わり
など
③ 消費生活・金融トラブル防止に関する分野
- 買い物などお金を使う上で注意すべきこと
- 売買などの契約の意義や注意点
- 自ら調べてよりよい消費行動につなげる方法
- 消費者としての権利や責務
- お金に関するトラブルの実態について
- トラブルの防ぎ方や巻き込まれた時の対処法
など
④ キャリア教育に関する分野
- 働くことの大切さと社会への関わり
- 世の中の様々な職業や働き方について
- 自ら職業を選び人生設計する能力
- 労働者の権利や責務と企業との関わり
- 企業の社会的な責任や社会貢献について
など
高校を卒業してすぐに就職しても、社会人として自立して生活するのに必要なことを一通り習得するため、どの分野も扱う内容はかなり幅広くなっています。
金融教育が近年学校で義務化されるようになった4つの理由
① 消費行動や経済的な価値観の変化
ネット通販やスマホでの購入・決済が普及したことで、誰でもすぐに欲しいものが入手できるようになりました。
その一方で現代では、お金を計画的に使う意識が生まれにくくお金の管理が苦手に感じる人も多く、将来お金のトラブルに巻き込まれやすいといわれています。
お金や経済に関して正しい知識や考え方を持つことで、お金の大切さを実感して自ら考えて消費する力をつけてもらおうという狙いがあります。
② 成人年齢の18歳への引き下げ
成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたことで、高校を卒業してすぐに銀行口座の開設やクレジットカードの発行などができるようになりました。
これにより、社会経験がないまま安易な消費行動によりトラブルに巻き込まれてしまう若者も現れやすくなります。
高校卒業までに社会についてある程度学んでおくことで、健全に生活するための力を養う必要が出てきました。
③ 資産運用を行っている人の増加
年金制度の崩壊のリスクなどから、老後の資金のために個人で資産運用をおこなうのが一般化してきました。
このため資産運用でのトラブルや失敗を防ぐため、投資や保険など金融商品の正しい知識を小さいうちから知っておく必要があります。
④ 労働形態やライフプランの多様化
現代社会ではフリーランスや契約社員など新たな労働形態が定着しており、様々な選択肢の中から自分に適した職業、会社、労働形態を決めなければなりません。
将来の目標や今やりたいことなどをじっくり考えて、どのように働きたいのか考える能力を金銭教育を通じて身につけるという狙いも挙げられます。
金融機関と提携して金融教育に取り組むケースも
銀行や証券会社などの金融機関と提携して金融教育をサポートしてもらっている学校も少なくありません。
実際の社員を特別講師として招いて授業を開いたり、職業体験や施設見学などのイベントを開催したり、テキストや教材を開発して提供したりなどサポートの形はさまざま。
全国の地方銀行による現地の高校生向けの金融経済クイズ選手権大会などゲーム性の高いユニークな試みも見られています。
金融教育は様々な理由が合わさって義務化されている
現在、日本中の学校で金融教育が義務化されていて、家庭科や数学など様々な科目でお金に関する実践的な知識や考え方を学べるようになりました。
こうした教育がでてきた背景にはお金の使い方の変化、成人年齢の引き下げ、資産運用を始める人口の増加、労働形態の多様化など様々な理由が挙げられます。
また銀行や証券会社などの金融機関が教材を提供したり見学イベントを開催したりなど様々な形で金融教育をサポートする試みも数多く見られます。
官民一体で子供にお金や仕事のことを教えることで、自分で考えて人生を切り開ける能力のある人材が生まれるのを目指しているんですね。