少し前まで未来の技術と思われていたAIは、今やビジネスにホビーにとあらゆるところで見かけるようになりました。
今年6月にはソフトバンク社が初めて学生向けにAI生成技術を活用するための教材を開発するなど、日本のIT企業もAIに関する新たな技術の研究に次々と着手しています。
日本より早くAI技術が利用されはじめた欧米では、プロモーションの現場でもAIが日常的に使われています。
そこで今回はAI技術を活用したプロモーションの試みでも、特にAIで生成された画像や動画を登用したプロモーション事例をご紹介します。
AI技術はプロモーションの大きな手助けになる
今年の5月、Meta社ではFacebookの広告主向けにAIを活用した広告を開発するためのテスト環境「AIサンドボックス」の導入をリリースするなどプロモーションの分野でもAI技術の導入が見られるようになりました。
プロモーションにおけるAI技術の市場価値は2021年の時点で全世界で158.4億ドルで、2028年にはおよそ10倍にまでふくらむといわれています 。[注1]
AIをプロモーションに取り入れる最大のメリットは、コストを削減しながら最大限の費用対効果を見込める点です。
実際にイタリアの下着ブランド「コサベラ」ではデジタルプロモーションにAIプラットフォームを活用したことで、最初の一か月だけで15%のソーシャル広告における費用削減と50%のソーシャル広告における収益率向上を達成させています。[注2]
画像生成AIはビジネスでも使われるように
AIの利用がここまで急速に進んだ背景として、日々技術が進歩することでAIでできることの幅がどんどん広がっている点が挙げられます。
単純にユーザーの質問に対して自動検索した結果をまとめるだけでなく、ワードを振ると画像や動画などを生成してくれたり、現在地から目的地までの最適な経路を分析してくれたり、問い合わせ内容に応じて回答をまとめて返信してくれたりと、技術の進歩に応じて様々なジャンルでAIの活用方法が見出されてきています。
現在、Stable Diffusionをはじめとした画像生成AIが次々とリリースされていて、ビジネスの場でも使われはじめています。
例えば世界的な食品メーカーであるハインツは、2022年にケチャップの画像をAIに生成させる様子をまとめた広告を展開しました。
この広告はAIでケチャップの画像を生成したところ、ラベルの形が同社の製品と同じものが出力されたことから着想を得たもので、「AIでもケチャップといえばハインツを連想する」と自社のブランド力をアピールしたものとなりました。
ここからは画像生成AIを活用したプロモーションの事例をさらに見てみましょう。
画像生成AIの活用事例:① El Jefe’s Taqueria
アメリカ国内に8つの店舗を持つタコスレストランのEl Jefe’s Taqueriaでは、デジタルプロモーションの一環としてお店のキャンペーンのプロモーションに画像生成AIを導入しました。
同社では以前、タコス用のアボカドソースが無料になるキャンペーンのプロモーションにアボカドをモチーフにしたキャラクターを取り入れました。
このキャンペーンではさらに学生向けにタコスの無料チケットも同時に配布することから、タコスのキャラクターを新たに画像生成AIで作成しました。
そこでEl Jefe’s Taqueriaは会社とともにMidjourneyを活用して、二つのキャラクターとタコスの本場であるメキシコを想起させるような荒野の風景を組み合わせたキービジュアルを作成して、無料チケットやWEB広告などに使用しました。
実際に来店した学生の間ではキャラクターが描かれたポストカードの評判が高かったことから、画像生成AIはアナログなコンテンツの作成にも十分役立ちそうですね。[注3]
画像生成AIの活用事例②:コカ・コーラ社
コカ・コーラ社では2023年3月にStable Diffusionを利用した特徴的なCMを公開しました。
フェルメールやムンクなどの作品に出てくる人物の間でコーラの瓶が渡っていき最終的に学生の手元へと届くという内容で、同社の公式YouTubeチャンネルに投稿された動画は半年で147万再生を記録するなど大きな話題となりました。
美術館のセットを組んで実写の映像を撮影した後、画像生成AIを使ってコーラの瓶がいろいろな絵画作品の世界に放り出される部分を作品の画風に合わせるよう加工します。
瓶の描写が元々の浮世絵や油絵と違和感ないようになっており、ユニークな発想ながらかなりクオリティの高い仕上がりになっています。[注4]
画像生成AIの課題となっている「著作権に関するトラブル」
画像生成AIは特定の膨大なデータセットを学習することで画像生成の精度を高めています。
例えば、Stable Diffusionの場合はLAIONという非営利団体が所有する50億以上の画像や文章のデータを学習しているほか、NovelAI Diffusionという画像生成モデルではDanbooruという海外の巨大イラスト投稿サイトのデータをもとにイラストを生成しています。
こうしたデータセットの中には著作権を無視して投稿されているものも少なくなく、元々の写真やイラストの著作者から起訴される事態もたびたび発生しています。
一方でAIで生成された画像の特徴がある特定のイラストレーターや漫画家などのものと酷似していても、その人の著作権を侵害しているかどうかは個人によって見解が大幅に分かれてしまいます。
これに関しては現在、炎上問題に発展している事例もあります。
中国のゲーム運用会社が広告に使用したAI生成の画像が、あるイラストレーターの絵柄をかなり模倣しているとして問題となり、今後イラストレーターが会社側を訴えるかもしれないといわれています。
反対にAIで生成された画像や動画自体は製作者自身の技能が用いられていないことから著作権の対象とは認められにくいため、無断で転載された場合などに措置ができるかといった問題もあります。
法的な線引きもまだ整備されていないため、画像生成AIの商業的利用はどこまでがOKとなるかは現状かなり曖昧なものだといえます。
AI技術はプロモーションをアシストする存在
AIによる画像生成モデルはここ数年で一挙に普及しました。
ビジネスの場でもAIによって生成された画像や動画を広告に活用する事例が増えており、AI自体の目新しさも手伝ってユニークなものはネットで広く拡散される可能性を秘めています。
ただしAIが画像を生成する際に参照する画像データについて著作権に関する問題も起きており、特にイラストの場合は特定の作者の絵柄に酷似した画像が生成されることも多く、問題なく商業利用するためにはまだ課題点があるのも現状です。
・関連資料のリンク
[注1] Global AI in marketing revenue 2028 | Statista
[注2] How Cosabella Is Using AI to Boost Sales with Email | eTail
[注3] ‘Free the Taco’ Campaign Draws College Students to Restaurants | Printing Impressions
[注4] Coca-Cola® Masterpiece