バリアフリーやユニバーサルデザインなど、身体の不自由な方でも容易に利用できるようにデザインされた商品や空間を世の中のいたるところで目にします。
実は改正障害者差別解消法が2024年4月に施行されることで、企業や団体のWEBサイトは「障害のある人への合理的な配慮」に基づく対応が義務化されることになりました。
この義務化にともない重要になるのが「WEBアクセシビリティ」の考え方です。
とはいえWEBデザインに普段から関わっている方でもない限り、あまりWEBアクセシビリティという言葉はピンと来ないかもしれません。
そこで今回はWEBアクセシビリティがどういうもので、合理的な配慮とは具体的に何をしなければいけないのか紹介いたします。
WEBアクセシビリティについておさらい
WEBアクセシビリティは「高齢の方や障害のある方を含めて、すべての利用者がWEB上の機能を通じて提供されている情報を取得できること」です。
特に財産や生命に関わる重要度の高い情報の場合、WEBアクセシビリティへの対応の遅れで何らかの被害が生じてしまうおそれもあります。
わかりやすくアレルギーを引き起こすおそれのある食品を例に見てみましょう。
ある業者ではピーナッツの粉末を材料に使った加工食品を販売していて、商品の画像の中に小さな字で材料が表記されています。
もし目が不自由でピーナッツのアレルギーを持っている方がいた場合、材料に気づかずに商品を注文してしまい、アナフィラキシーショックを起こしてしまうおそれもありますよね。
インターネットが生活に欠かせないものとなった現代、上記のようなトラブルが普通に起こりえる事からもWEBアクセシビリティの重要さが見えてきます。
WEBアクセシビリティと「合理的な配慮」
WEBアクセシビリティという概念は、2012年に改正された障害者基本法や2016年に施行された障害者差別解消法で明記された「合理的な配慮」が発展したものといえます。
合理的な配慮は、障害者が何らかの原因で公共物や公共施設を利用できない場合にその要因の除去にできる限りのぞむこと。
ちなみにこの合理的な配慮の対象を高齢者や妊娠中の方などまで広げたのが、「バリアフリー化」です。
合理的な配慮の実現では、障害者や体が不自由な方との相互理解が重要です。
相手の要望を一方的に拒否するのは後述する改正法にひっかかってしまうおそれもあります。
WEBアクセシビリティの対応が重視されるように
視覚や聴覚に難がある方や手足の不自由な方など障害のある人でもWEBコンテンツを問題なく利用できるよう、2024年4月に障害のある方への合理的な配慮が義務化されました。
すでに公的機関では遵守が義務化されていますが、2023年11月の時点では民間企業に関してはあくまでも遵守は努力義務で必須ではありません。
しかし法改正以降も未対応のままだと、WEBコンテンツの運用元は罰則を受ける可能性があります。
実はWEBアクセシビリティに関するJIS規格として2004年から「JIS X 8341-3」というものが制定されているのですが、そもそもWEBアクセシビリティを意識してコンテンツを整備している企業はそれほど多くありませんでした。
令和2年度の総務省による調査では、「JIS X 8341-3」の規格に準拠してつくられた公式サイトは調査対象の企業の4.6%ほどしかなく、将来的にWEBアクセシビリティの改善を行う予定だと回答した企業も全体の半分以下でした。[注1]
これまであまり対処してなかったけど、義務化される前にWEBアクセシビリティを意識するなど合理的な配慮に基づいた対応を始めた企業も多いのではないでしょうか。
海外では訴訟問題になったことも
日本に先駆けてアメリカ合衆国では、障害者政策の基本法ともいうべきADA法(障害を持つアメリカ人法)が1990年に制定されました。
このADA法に違反するとして2019年に大手ピザ宅配チェーンが訴えられた事件があります。
公式サイトで商品の割引サービスを宣伝した際、WEBサイトの音声読み上げソフトではアクセスできず割引価格で購入できなかったとして視覚障害の方が企業を訴えました。
このほかにもアメリカでは、障害者がWEBサービスを利用できないとして企業を訴えることが珍しくありません。
日本でも、改正法の実施によりWEBアクセシビリティの未対応によるトラブルが起こる可能性は十分ありえます。[注2]
WEBアクセシビリティへの対応のポイント
WEBアクセシビリティへの対応としては、特に以下の方でも問題なく利用できるものを目指すべきです。
- 視覚障害者
- 聴覚障害者
- ご高齢の方
視覚や聴覚の障害というと光や音が感知しにくい状況を連想しがちですが、逆に光や音を過敏に感知してしまう場合も想定しておかないといけません。
人によっては光や音を通して入ってくる情報量が多すぎて、WEBサイトの利用に困難が生じることもあります。
WEBアクセシビリティに対応したコンテンツ作りには「誰もがストレスや不便性を感じず
に利用できること」を意識するのが重要です。
WEBアクセシビリティ実現の意外なメリット
自社のWEBコンテンツをWEBアクセシビリティに対応させることは、コンテンツのユーザー数向上につながる可能性もあります。
近年では、高齢者や障害者のスマホ所有者やネット利用者が大幅に増えてきています。
彼らがWEBコンテンツを快適に利用できれば、リピーターとして使い続けたり周囲にコンテンツを広めたりしてくれるかもしれません。
シニア向けのマーケティングを行おうとしている方には大きなメリットといえますね。
具体的なWEBアクセシビリティの改善事例
WEBアクセシビリティへの対応例として、総務省東海通信局の公式サイトでは以下の対策を挙げています。
- 識別しやすいよう全てのWEBページに個別のタイトルを入れる
- 画像等には音声読み上げが対応できる代替テキストを設置する
- どのデバイスでも閲覧できるよう機種依存文字等を利用しない
- 音声読み上げで誤読が起きないよう表記の仕方に配慮する
- 誰でも快適に読めるよう文字サイズをユーザーで変更できるようにする
など
施設でのバリアフリー設置などと違って、WEBコンテンツは手間やコストをかけずにWEBアクセシビリティの向上をはかることができます。
とはいえ何から始めたらいいかイメージできない方は、一度自社のWEBコンテンツを利用してみましょう。
不便だと感じた点は人によってはより強いストレスを感じている可能性があります。
使いやすいと感じるには何を直したらいいか考えると、おのずと改善案がみつかるかもしれませんよ。
WEBアクセシビリティの対応は早めにしておこう
2024年4月の改正障害者差別解消法の施行までに、民間企業のWEBコンテンツは視覚や聴覚などに障害がある方でも問題なく利用できるように対応させなければいけません。
障害のある方への合理的な配慮として、画像への代替テキストの挿入や機種依存文字などの未使用などといったWEBアクセシビリティ対応が挙げられます。
これから本格的に対処していきたいという方は、一度自社のコンテンツを利用してみて使いづらいところはないかチェックしてみるのもおすすめです。
・関連資料のリンク
[注1] 総務省「令和2年通信利用動向調査報告書(企業編)」
[注2] CNBC | Supreme Court hands victory to blind man who sued Domino’s over site accessibility
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