2021年に障害者差別解消法が改正されたことに伴い、障害のある方でも問題なくWEBコンテンツを利用できるよう合理的配慮の義務化が決定されました。
2024年4月1日以降は国や自治体だけでなく、民間事業者が運用するWEBコンテンツでも合理的配慮の提供が義務づけられることになります。[注1]
コーポレートサイトやWEB広告の運用を行っていれば、来たるべき義務化に備えてWEBアクセシビリティに対応しておくことが大切です。
今回はWEBアクセシビリティの概要や義務化の背景、今後取り組むべきことについて解説します。
WEBアクセシビリティとは「WEBのバリアフリー化」
WEBアクセシビリティとは、WEBと「利用できる」「アクセスできる」という意味を持つ「アクセシビリティ(Accessibility)」という言葉を組み合わせた造語です。
利用者の年齢や性別、環境、障害の有無などに関係なく、全ての人がWEBサイトを不自由なく利用できるようにするための合理的配慮を意味します。
例えば動画に字幕やナレーションを入れたり、さまざまなデバイスからアクセスしやすいよう工夫を施したりするといった対応がこれに該当します。
これまで合理的配慮は国や自治体が運用するWEBコンテンツのみ義務化されていましたが、2024年4月1日からは民間のものでも義務化されることになります。[注2]
合理的配慮が義務化された背景
障害のある方への合理的な配慮が義務化されることになった背景には、インターネットの幅広い普及が挙げられます。
総務省が発表している「令和5年 情報通信白書」によると、2022年における個人のインターネット利用率は84.9%に達しており、ほとんどの人がインターネットを利用している実状がうかがえます。[注3]
その一方、全てのWEBサイトがアクセシビリティに配慮した作りにはなっておらず、「目や耳が不自由だと情報を得られない」「どこに何の情報が掲載されているのかわかりづらい」といった問題を抱えているサイトは少なくありません。
十分な配慮が行われていないと、いざというときに必要な情報を獲得できなかったり、手続きを利用できなくなったりして、社会生活で不便を強いられる原因となります。
WEBサイトが現代人の貴重な情報源となっている以上、障害や感覚にかかわらず全ての人が不自由なくWEBにアクセスできる環境は必要不可欠なため合理的配慮が義務化されることとなりました。
WEBアクセシビリティの対応でやるべき取り組み
コーポレートサイトやWEB広告などを運用している事業者は、2024年4月1日の合理的配慮の義務化にそなえてWEBアクセシビリティに対応させることが重要です。
しかし改善には相応の時間と手間が掛かりますので、なるべく早めに義務化に向けた取り組みを始める必要があります。
ここではWEBアクセシビリティの対応にあたり、今からやっておくべき取り組みを3つご紹介します。
その1:既存サイトの状況を把握する
WEBアクセシビリティには、WCAGと呼ばれるガイドラインと、その一致規格であるJIS規格(JIS X 8341-3)があります。
JIS X 8341-3の適合レベルはレベルA~AAAの3つに区分されており、国からはレベルAAに準拠することが推奨されています。
レベルAAの基準は、音声解説は付いているか、見やすいコントラストになっているかなど全部で13個の項目があり、それらを全て満たしている必要があります。
まずはレベルAAの項目と既存サイトの状況を照らし合わせ、どの部分に改善が必要なのかチェックするところから始めましょう。[注4]
WCAGやガイドラインについては、デジタル庁で公開されている「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」や、総務省が公開している「みんなの公共サイト運用ガイドライン」などを参考にするのが基本です。
その2:専門の知識・スキルを持った人材と予算の確保
適合レベルAAのWEBアクセシビリティを導入するには、WCAGやJIS X 8341-3といった規格やガイドラインを熟知し、然るべき改善方法を提案できるスキルを持った人材が必要不可欠です。
自社で対応する場合は、従業員を教育し、人材を育成しなければなりません。
自社でカバーしきれない場合は、外部の業者に委託するという手段もありますが、どちらのケースも教育費または委託費が必要になります。
自社の状況や改善の範囲などに合わせて予算を策定し、人材の確保または委託する会社の選定などを行いましょう。
なお、WEBアクセシビリティ対応に掛かる費用については、情報バリアフリー事業助成金などの助成金や補助金を利用できる場合があります。
予算が不足している場合は国や各自治体が設けている補助金・助成金を活用できるかどうか確かめてみましょう。[注5]
その3:監査・評価の体制を整える
WEBアクセシビリティは一度対応しておけばそれで終わりというわけではありません。
全ての人にとって本当に使いやすいWEBサイトになっているか。問題や課題が発生していないか。改善の余地はないか、などを定期的にチェックし、必要に応じて修正などを加えていく必要があります。
そのためには、自社のサイトのアクセシビリティ状況を監査し、客観的に評価する体制が必須です。
環境整備にあたっては、いつ・誰が・どのような方法で監査し、どういった基準で評価するのかを明確にし、独自のガイドラインを策定しておくことが大切です。
合理的配慮ができていないとどうなる
2024年4月1日以降でも合理的配慮に対応できていないからといって、それだけでは法律違反とみなされて罰則が設けられることはありません。
そのため、改正障害者差別解消法の施行後にWEBアクセシビリティに対応していないWEBコンテンツを運用したとしても、現時点で法的なペナルティはないといえます。
ただし同法12条では、主務大臣は特に必要と認めた場合、事業者に対して報告を求めたり、助言や指導、勧告などを行うことができると定めています。
また主務大臣からの求めに応じなかったり、虚偽の報告をしたりした場合は、同法第26条の定めにより、二十万円以下の過料に処される可能性があります。
もしWEBアクセシビリティに対応できていないコンテンツを運用していて現状の報告を求められた際に、その要求を無視したり虚偽の報告を行ったりした場合、同法違反として処罰の対象になるおそれがあるので要注意です。[注6]
企業イメージの低下につながるリスクも
WEBアクセシビリティ非対応のサイトを運用するリスクは罰金だけに留まりません。
法律が改正されたにもかかわらず、然るべき措置を行わないサイトを運用した場合、社会的責任を軽視している企業とみなされ、イメージダウンにつながる可能性があります。
コンプライアンス遵守という観点からも、WEBアクセシビリティ遵守の積極的な取り組みは企業にとって重要な活動となります。
WEBアクセシビリティの対応に向けた取り組みを
障害者差別解消法の改正に伴い、2024年4月1日から民間事業者が運営するWEBサイトでも障害のある方への合理的配慮が義務化されます。
現時点では直接的な法的ペナルティは存在しませんが、WEBアクセシビリティ非対応のサイトを運用し、その実態報告の求めに応じない、または虚偽の報告を行った場合は過料の対象になる可能性があります。
また、コンプライアンス遵守の観点から企業イメージが低下する可能性もあるため、コーポレートサイト等を運用している場合はWEBアクセシビリティ対応に向けた取り組みを行いましょう。
WEBアクセシビリティ対応にあたってはJIS規格適合レベルAAに準拠することが求められますが、そのためには複数の項目を満たす必要があります。
そのためには専門的な知識・スキルを有する人材が不可欠ですが、自社で確保するには相応の時間を要するので、信頼できる外部業者に委託する方法も検討しましょう。
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・関連資料のリンク
[注1] 障害を理由とする差別の解消の推進 – 内閣府
[注2] ウェブアクセシビリティとは? 分かりやすくゼロから解説! | 政府広報オンライン
[注3] 総務省|令和5年版 情報通信白書|インターネット
[注4] 総務省:みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)
[注5] 情報バリアフリー事業助成金 Q&A(情報バリアフリー通信・放送役務提供・開発推進助成金):NICT
[注6] 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律 | e-Gov法令検索