ここ数年、生成AIに関するニュースを多く目にするようになりました。
中でも文書・画像・映像など生成AIを用いて作られたコンテンツは、今やあらゆるところで見かけます。
そんな生成AI、マーケティングの現場ではコンテンツの生成だけでなくあらゆる形で活用されています。
今回は海外のマーケティングの現場における生成AIの活用事例を解説していきます。
生成AIとはどんなAIなのかおさらい
AIとは何を指すのか厳密な定義はないものの、一般的に大量に読み込まれたデータや自身の経験則を反映して自動で何かを予測したり分析したりする技術のことを指しています。
生成AIはそうしたデータや経験則をもとに文章や画像などのコンテンツを自動で生成する技術です。
AI自体はコンピュータゲームの対戦相手などの用途に古くから使われてきましたが、生成AIの技術は2018年ごろから急速に発展しています。
2024年3月現在では分子の配列を自動で分析して生成できるまで、バラエティーに富んだ用例が見られています。
生成AIはマーケティングにとって需要が大きい
2023年にJPモルガングループが開催した国際的なカンファレンスの中で、投資家たちに「将来、ビジネスの分野の中でどこがAI技術が活躍できそうか」という質問をしたところ、マーケティングと答えた割合が一番多く、28%にも達しています。[注1]
確かに市場調査や広告設計などはリードの需要やトレンドの変遷など膨大なデータを集めて分析する必要があるため、そういった意味では生成AIが得意とする動作がそのまま役立てるといえるでしょう。
また近年は動画サイトやSNSなどWEBコンテンツの種類も多種多様になってきていることや、スマートフォンの登場によりジオターゲティングなど新たな形のマーケティングも生まれていることで、生成AIもあらゆる方法でマーケティングに活用できます。
CX(顧客体験)の向上と広告キャンペーンの分野から、生成AIの活用例を見ていきましょう。
生成AIのCX向上に関する活用例
生成AIの活用例 ①:Expedia
大手オンライン旅行サイトのExpediaは、ユーザーが柔軟に計画を立てられるよう検索・予約の機能に生成AIを搭載しています。ホテルの価格帯やフライトデータなど1,200兆もの変数を読み込ませることで、無限にあるプランの中から価格的に最適なものを予約できるようになっています。
また過去にチャットで出てきた話題を参照できる機能も実装しており、ユーザーの履歴や好みなどからオプションメモが生成できるようになっています。
ほかにも同社では将来的に、ユーザーにおすすめの特典や割引をAIが自動で通知する機能の実現も目指しています。
生成AIの活用例 ②:Wayfair
アメリカの家具ECサイト、Wayfairでは自宅のインテリアデザインを生成AIがアレンジして、家具を購入するときの判断材料にできるDecorifyを立ち上げました。部屋や庭の画像をアップロードすれば数秒でボヘミアンやミッドセンチュリーモダンなど好みのスタイルに仕立てた画像を生成してくれます。
画像に写っている家具をクリックすれば、Wayfairで販売されている家具のリストが表示されてECサイトにアクセスして実際に買うことができるようになっています。
また実際の商品をもとにして部屋のデザインをアレンジする機能も備わっていて、リード客が自分の家にどの家具をどう設置したらいいのか見て納得した上で購入できる仕組みです。
生成AIの活用例 ③:Creater Studio
世界的なファストファッションチェーンのH&MグループのCreater Studioでは、生成AIの技術を活用したオリジナルのファッションアイテムを生成できるツールを立ち上げました。
プロンプトを書くとAIが分析して様々なプリセットの要素を組み合わせたデザインを取り入れたアパレルのモックアップが出力されます。生成されたデザインが気に入ればその場ですぐ発注できるようになり、同社の製造・物流インフラにより素早く届けられます。
メンズ、レディース、子供服、アクセサリーのデザインが生成できるため、経験や知識がない方でも気軽にオリジナルのアイテムを手がけられるようになっています。
生成AIの活用例 ④:Calm
マインドフルネスの実践をサポートするアプリ、CalmはAmazonが手がけたAIによるリコメンド機能の最適化でユーザー一人ひとりのニーズにあったコンテンツを提供しています。
アプリユーザーには繰り返し同じコンテンツを利用する方も多いため、過去に聞いた楽曲などをそのままおすすめせず、別のものをおすすめしてユーザーが新たなコンテンツを開拓できるようになっています。
一般的なアプリよりもリコメンドの機能に対して重点をおいてAI技術を取り入れた結果、毎日マインドフルネスを実践している人の割合を3%ほど増やすことができました。
生成AIの活用例 ⑤:Grab
マレーシアの配車サービスアプリ、Grabでは車の手配をしようとアクセスが殺到してしまい、スムーズに予約注文をさばききれなかったことがたびたび発生していました。
そこでユーザー対応に生成AIを導入して、一般的な問い合わせには事前学習した内容で自動で返答し、そうでないものにはすぐに担当スタッフへ取り次ぐようにしました。さらにスタッフとのやり取りも学習することで、自動対応の能力を伸ばせるようにしています。
これにより処理しきれなかった発注を90%も減少させて、公式アプリの国外への展開など事業を拡大させるだけの余力を生み出しています。
生成AIの広告キャンペーンでの活用例
生成AIの活用例 ①:Virgin Voyages
クルーズ旅行を手がけるVirgin Voyagesは、AIでハリウッド女優のデジタルツインを生成して広告に活用するキャンペーンを立ち上げました。
これはデジタルツインのキャラクターが本人そっくりの声で名前を読み上げてクルーズ旅行に招待するというオリジナルの招待状を生成できるもので、音声と映像の2つの生成AIを組み合わせることで、本人の動きを自然かつ忠実に再現できるようになっています。
この広告キャンペーンは大成功し、コロナ禍で利用者が激減したクルーズ旅行の予約数を1,000件以上も増やしました。
生成AIの活用例 ②:Walgreens
薬局チェーンのWalgreensではコロナ禍にできるだけ多くの人にワクチンを接種してもらうよう呼びかけるキャンペーンに生成AIを活用しました。
Walgreenには5,000万人ほどの顧客がいるため、全ての顧客に対してワクチン接種を呼びかけるメールを準備するのは容易なことではありません。
そこで商品の種類やメーカーなどごとに固有のモデルを学習させる「ブランド言語の最適化」というAI技術を用いて、メールの件名や本文などの要素を生成し負担を軽減させました。
AIによるメールシステムの自動化により、ワクチン接種者の人数を30%も増加させることに成功しています。
生成AIの活用例 ③:Wowcher
イギリスのクーポンサイト、WOWcherはセール情報をより効率よく宣伝するため生成AIを取り入れたキャンペーンを実施しました。
すでに広告メールの運用にAIを取り入れた同社は、さらにFacebookとInstagramの広告のフレーズもAIに生成してもらう仕組みを導入しました。生成AIは短い時間に大量の案を生み出すため、スタッフの案も交えながらABテストを繰り返し、反応のいいものを広告に導入しています。
その結果、SNSでの宣伝にかかっていた顧客1人あたりのコストを31%減らすことに成功しました。
生成AIの活用例 ④:JP Morgan Chase
国際的な金融機関のJP Morgan Chaseは実際に同社がマーケティングに用いている文章を分析して、キャッチコピーの最適化を行う生成AIを導入しました。
システムエンジニア、データサイエンティスト、言語学者のチームが開発したAI技術は、100万以上の単語やフレーズからなる文章を内容の展開、感情表現、行動喚起などの要素と結びつけながら学習していくことで、最適解となるメッセージを生成します。
カード事業や住宅ローン事業の顧客向けのメッセージを生成したところ、メールのクリック率の増加率が、人の手で書いた従来のものに比べて2倍以上も上がりました。
生成AIの活用方法はこれからもどんどん進化する
AI技術の発展はまさに日進月歩といった感じで、これからも新たな機能が次々と生まれていくでしょう。
それと同じように、マーケティングでも膨大な顧客データや調査結果をもとに生成AIを用いた施策があらゆる形で行われるだろうと思います。
まだ生成AIは使いこなすのにハードルが高そうだという方は、まずはDXによる業務の効率化などから初めて見るのもよいかもしれませんね。
・関連資料のリンク
[注1] The Rise of Generative AI | J.P. Morgan Research
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