商品の価格上昇や販売終了が相次ぐ昨今、ユーザーの反感を買わずにマイナスな事実をどのように伝えるかは企業にとって悩ましいこと。
かといってバレないようにこっそり値上げや販売の中断をしたら、場合によってはネットで大炎上して業績不振の遠因となる可能性も十分あります。
そうしたトラブルを避けるには、何よりもユーザーに誠実に向き合って包み隠さずに伝えることが重要です。
今回はマイナスな事実を素直に伝えたことでかえってユーザーの信頼を高めた事例や、プロモーションにおける「両面提示」の大切さを中心にお伝えします。
マイナスな事実をごまかして売ることができない世の中に
インターネットやSNSの普及により誰もが情報の発信源となったことで、卑劣なやり口での商売はすぐにやり玉にあげられる時代となりました。
2024年10月には自社商品の売り方がかなり悪質だとして、ある大手小売チェーンがネットで大炎上しています。
同社は弁当や惣菜に極端に上げ底の容器を使ってかさ増ししていることや、同じ内容のものをより高い違う商品として売り替えていることなどが、以前からネットで問題視されてきていました。
しかし週刊誌のインタビューで同社の社長がこうした悪質な売り方を一切認めない発言をしたことや、有名Youtuberの動画に同社の商品が紹介された際に中身の具材を極端に減らして売っていることが露呈してしまったことで、悪質な売り方が一気に広まって炎上してしまいました。
この会社の2024年上半期の営業利益は昨年度より大幅に減少してしまい、同業他社と大きく差が開く形となったのですが、その遠因としてこうした売り方に対する顧客の離脱をあげる意見も見られています。
マイナスな面をあえて伝えて好評を得た4つの事例
先ほどの事例とは対照的にユーザーに対して誠実な商売を心がけて顧客にとってネガティブな事実を公表することで、業績や人気がむしろ上がった事例を4つ紹介します。
事例その1:木村石鹸の正直すぎる広告
木村石鹸工業は大阪府に本社を持つ、今年で創業100年を迎える老舗の石鹸メーカーです。
もともと他社ブランド製品の製造を請け負っていました同社は、2019年に自社ブランドのヘアケア商品をリリースしました。
その際、LPやSNSの広告で最初にこれは広告だとはっきり名言して、「肌に合わない人もいる」「シリコーンを配合している」と人によってはデメリットになりえることを正直に述べたことが話題となりました。
同社では何に対しても「正直さ」を貫く姿勢を重視していることもあり、BtoCでの販売経験がないことで広告もきちんと商品のありのままが伝わるようなものになったのです。
こうしたPRが話題となり、大手メーカーが競合しあう中でも同社のヘアケア商品は確実に売上を出しています。
これにより、トライアルセットの販売数を5倍に、ヘアケア商品自体のECサイトでの売上も3倍に増やすことに成功しました。
事例その2:赤城製菓の謝罪広告
赤城製菓は「ガリガリ君」などのアイスクリーム製品で知られる製菓会社です。
2016年と2024年に主力商品であるガリガリ君の売値を値上げした際、社長を中心に社員一同が深々と頭を下げて値上げを詫びる内容の広告をテレビCMや新聞広告に展開しました。
どちらとも10円だけの値上げだったのにも関わらず、全国に向けて謝意を見せる会社の謙虚な姿勢が伝わってきます。
値上げした売値もごまかさずにはっきり表示させたこの珍しい広告は、ネット上だけでなく海外メディアなどでも大きな話題を呼びました。
広告が展開されるまでは値上げに対して否定的な意見が集まるのではと予見していましたが、実際は値上げに対して好意的な反響が多かったようです。
値上げした当月の売上本数が前年比で1割増えており、その後も年間の売上本数は値上げ前とほぼ同じペースを保っています。
事例その3:やおきんの感謝広告
やおきんは「うまい棒」や「キャベツ太郎」などの駄菓子の企画・販売を行う会社です。
2022年にうまい棒が10円から12円に値上げし、1979年の発売以来初めての価格改定を行いました。
この時に同社は40年以上の間、商品を愛用してくれたユーザーに感謝の意を述べながら値上げをはっきり明示する広告を全国紙とSNSの公式アカウントに展開しました。
「なくなっちゃうほうが、悲しいから。」というメッセージとともに継続的な販売に値上げがどうしても不可欠な理由を率直に述べたものなど、うまい棒の製造・流通・販売に携わる関係者や消費者のうまい棒の値上げに対する率直な意見がシリーズ形式で広告に掲載されています。
その結果、ネットの意見はほとんど値上げに対して肯定的なものとなり、2024年に12円から15円に価格が改定された際も同じく値上げを受け入れる意見が相次ぎました。
事例その4:志摩スペイン村の自虐広告
志摩スペイン村は三重県にあるテーマパークやホテルなどからなる複合リゾート施設です。
サービスや接客の評価は高いものの、大都市圏からのアクセス性や競合施設の登場により、来客数の伸び悩みが大きな課題となっていました。
そこで閑散とした園内の様子を包み隠さず見せながら「並ばずに遊べる」「他人を気にせず写真を撮れる」と自虐っぽくアピールする広告を2019年に公式サイトに展開しました。
客の少なさをあえて特徴として宣伝するユニークさがネットで話題となり、学生を中心に利用者を増やすことに成功しました。
かつて地元住民から「いつ閉園してもおかしくない」といわれていたのに対して、今や東京や大阪の有名テーマパークよりもアトラクションが混んでいることもあるそうです。
その後も様々なPR戦略が成功したこともあり、2022年には施設全体での年間来場者数の増加率が41.1%と開園以来の最高値を記録するほどとなりました。
「両面提示」により誠実な姿勢をアピールする大切さ
マーケティングの用語で、商品やサービスのメリットだけを見せる広告手法の「片面提示」、デメリットも含めて見せる方法の「両面提示」というものがあります。
視聴者に「使ってみたくなった」「印象が良くなった」と思わせるため、広告は一般的に片面提示のものになりがちです。
ネットが普及する前ならこうした手法は有効だったかもしれませんが、少なくとも現在は不誠実な売り方が一たび発覚すればすぐに拡散されてしまいます。
しかし反対にユーザーにとってデメリットに感じることをあえてオープンにすれば、製品への信頼が高まりやすくメーカーに誠実な印象を与えるきっかけとなります。
マイナスなことをうまく伝えた「マジックスタット」
両面提示の代表例として、アメリカでかつて販売された温度計「マジックスタット」があります。
マジックスタットを販売するにあたり、シュガーマンという広告マーケターは売れる気配がないダメな商品だと感じたそうです。
そこでまずは広告を見た人がメーカーに不信感を抱かないよう、シュガーマンはあえて広告文を商品のデメリットから始めて、徐々に良さを伝えるという構成のものにしました。
この広告は大きな反響を呼んだことで、マジックスタットはメーカーを代表するヒット商品となりました。
正直に伝えることで「応援消費」のきっかけになる可能性も
応援消費とは消費を通じて製品や企業を支援する行動のことで、被災地でつくられた製品を購入する、風評被害を受けた店舗を利用するといった例が挙げられます。
「値上げしないと赤字になってしまう」、「利用者がずっと伸び悩んでいる」といった素直な情報を伝えることは、メーカーへの信頼感につながるだけでなくユーザーの共感を高められる可能性もあります。
商品を作る裏側の姿までSNSで広まりやすい今の時代だからこそ、ユーザーにどう伝えるかは会社のイメージだけでなく業績にまで影響するのかもしれないですね。
デメリットこそはっきり明示する誠実さが大切
商品の良さを分かりやすく伝えることが、広告の大鉄則であることは変わりありません。
しかし広告内容に誇張やごまかしがあると、ちょっとしたきっかけで炎上する可能性も今の時代は十分あります。
たとえユーザーにとってマイナスなことでも誠実に伝えることが、炎上を防ぎ会社のイメージを保つうえでは重要です。
ユーザーの共感が得られれば応援消費につながり、かえって業績が伸びることもあるかもしれません。