保険のパンフレットとか、食品パッケージの原材料の表記とか、内容を細かくチェックしたいのだけど、表記が見にくくて嫌になってしまったことってありませんか。
情報が多過ぎて圧迫感を感じたり、文字が小さすぎて読みにくかったりして、重要なことなのに頭にすんなり情報が入らない、そのようなデザイン表記の問題を解消するために生まれたのが「ユニバーサル・コミュニケーション・デザイン(UCD)」です。
今回はデザイン表記が分かりにくいことでどのような問題が起こるのか、そしてその問題をUCDでどう対処できるのか紹介します。
デザイン表記が分かりにくいことで起こる問題
重要そうな書類やパッケージに記載されている注意書きなどは特に分かりづらく表記されているような気がしますよね。
デザイン表記が分かりにくいことで起こる問題を3つのケースで見てみましょう。
1. 自治体からの通知物の場合
Aさんのもとへある日、無料で受診できるがん検診のお知らせが届きました。
しかしAさんはそれが大事な通知物だとは思わず、軽く目を通したうえで他の広告郵便物と一緒にしばらく放置していました。
あるときお隣さんと会話をしている中で、無料で受けられるがん検診の話になり、自治体からがん検診のお知らせが郵送されていたことを初めて知ったのですが、気づいた時には既に受診期間は過ぎていました。
放置していた通知物をよくよく見てみると、文字がびっしり記載されているハガキの誌面の中に小さく「がん検診」の文字、そして「無料」の2文字を発見したようです。
デザイン表記の問題で目的すら伝わらない通知物によって、受診したかったAさん、そして受診してほしかった自治体、双方にとって残念な結果となってしまいました。
2. 銀行窓口での手続き帳票の場合
銀行の窓口係として務めるBさんは、来店客に記入してもらう手続き帳票に関するこんな意見に悩んでいました。
「どう書けばいいか分かりづらい」
「記載が多くて全部読みながら書くのが面倒だ」
Bさん自身も、来店客一人ひとりに毎回書類の書き方を説明するのが負担に感じていて、手続き帳票のデザインやレイアウトのせいで、銀行員だけでなく来店客にも余計な時間が掛かり、ストレスに感じているのではと思っていました。
銀行の全支店で同じことが起こっているとすれば、途方もない時間が無駄に費やされていている上に、多くの顧客の満足度が低下していることになります。
3. 食品パッケージのラベルの場合
Cさんには小麦アレルギーを持つ子どもがいます。
近所のスーパーで加工食品を購入するときには絶対に間違えないよう気を付けてパッケージのアレルゲン表示をチェックしているのですが、時間がなく忙しい時にうっかり読み間違えて小麦が含まれる商品を購入してしまい、子どもが口にしてしばらくするとアナフィラキシーを発症してしまいました。
読み間違えてしまったことを反省しつつも、もう少し分かりやすくアレルゲン表示が出来ないものか、不満も感じています。
大きく目立つようにアレルゲンを表示してあるパッケージも増えてきましたが、小さな枠の中に原材料表示がびっしりと書き込まれていて分かりにくいものもまだ多く、買い物一つでも細心の注意を払い、時間をかけている状況です。
この3つのケースを解決するには、伝えたいことが伝わるようにデザイン表記を改善することが必要となります。
情報デザインを改善する対処策である「UCD」
例として挙げた3つのケースは、直接的には媒体のデザイン表記が分かりにくかったことが原因となっています。
「見にくい」「伝わりにくい」といったデザイン表記の問題は情報の伝達効率を低下させ、情報が届かなくなってしまったり、届いても余計な時間が掛かることでストレスを与えることになってしまいます。
このようなデザインが引き起こす問題を解決することが「UCD(ユニバーサル・コミュニケーション・デザイン)」の目的です。
一般社団法人ユニバーサルコミュニケーションデザイン協会(UCDA)によって提唱されたこの考え方は人間中心設計をベースとして、情報が伝わらなくなる原因を特定し、その原因を取り除くことでより多くの人に情報が伝わるドキュメントデザインを目指すものです。
そのために産業、学術、そして一般の生活者の集合知で、ドキュメントデザインに関する様々な試験を行い、統計に基づいて「わかりやすさの基準」を定め、基準に照らし合わせてドキュメントデザインを評価する手法を開発しています。
UCDを用いたデザイン改善の手法
UCDの考え方を採り入れたデザイン改善は下記のように進めます。
現状のデザインの問題点を発見する
デザインの問題点を発見するためには客観性を持ったユーザー視点が必要となります。
デザインを制作した本人が問題点を発見するのは難しいので、制作者とは別の人が問題点を探し出すことになります。
その際に以下の9つの観点で問題点を探します。
- 情報量 : 受け取り切れない量の情報になっていないか
- タスク : 5W1Hがわかりやすいなど、情報を送った相手が意図した作業を起こせるか
- テキスト(文意) : わかりやすい文章になっているか
- レイアウト : 視線導線に無理がなく、内容を見落とさないレイアウトの工夫がされているか
- タイポグラフィ(文字) : 文字のサイズや行長、行間は適切か
- 色彩設計 : 色弱者や高齢者にも識別できる配色になっているか
- マーク・図表 : 直感的に意味が伝わるマーク・図表デザインになっているか
- 記入(入力)欄 : 場所やサイズが適切で誤記入(誤入力)を防ぐ工夫がされているか
- 使用上の問題 : 情報にアクセス可能か、説明の順番は適切か
これらの観点で問題点を洗い出し、上がってきた問題点一つひとつに重要度が測れるように点数をつけます。
点数はマイナス1点からマイナス3点までのマイナスの3段階で表します。
問題点を意識してデザインを再構築する
デザインの問題点が上がってきたら、原稿制作者も含めてデザイン制作に関わるメンバーを集め、問題点とその重要度を共有し、問題点を無くす方法を議論して検討します。
原稿の量が多すぎることが原因であったり、色弱者への配慮がなくデザインしていたことが原因であったり、問題を生み出していた原因を把握し、デザイン上の対処策を考え、デザインを再構築します。
再考されたデザインをUCDAに評価してもらう
再構築されたデザインはあらためて第三者が評価をし、伝えたい内容が伝わるようになっているか確認をします。
原稿制作者でもデザイン制作者でもなく、客観的に評価できる立場の人に評価してもらうことが大事です。
第三者機関となるUCDAは分かりやすいデザインを評価する制度を確立しています。
「見やすいデザイン」認証と「伝わるデザイン」認証があり、これらの認証制度を利用してデザインを評価してもらえば、なお一層の改善効果が見込めます。
情報デザインの改善ならUCDの導入がおすすめです
パンフレットやパッケージで重要な情報を伝えたくても、デザイン表記の問題で情報が届かなくなってしまうこともあります。
それによって余計なコストが発生したり、顧客満足度が下がってしまうこともあれば、人命に関わる大変な問題に発展することも考えないといけません。
そういうことが起きないように、UCDの手法を採り入れてデザイン表記を改善してみてはいかがでしょうか。
デザイン表記が改善されると情報の伝達効率が高まるようになり、問題を減らすだけでなく様々なプラスの効果を得られるようになりますよ。
・関連資料のリンク
一般社団法人ユニバーサルコミュニケーションデザイン協会 (UCDA協会)
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