東京大学駒場博物館で開催された「宇佐美圭司 よみがえる画家展」(2021/4/28〜8/29)に行ってきました。
そもそもこの展覧会が企画されたきっかけは、東大生協食堂に展示されていた同作家の壁画作品「きずな」が食堂改修工事の際、その価値をだれも重要視せず、調査や保存するということもなく工事業者が作品をカッターで切り裂いて廃棄処分した悲劇に端を発します。
すぐ側に文化や美術史の権威が揃っている最高学府でありながら起こった悲劇に、文化財の保存蒐集、アーカイブ化といった問題が浮き彫りになり、シンポジウムなども活発化し、そのなかで反省の意味を込めて東京大学主催で本展が企画開催されました。
コンパクトながら精査された展示構成
展示企画はコンパクトながら作家の画業を俯瞰できる構成となっており、また写真でしか記録が残されなかった世界最初期のアート作品へのレーザー光線を用いたインスタレーション「Laser: Beam: Joint」の再制作展示で1970年大阪万博鉄鋼館の演出の疑似追体験ができるものとなっていました。
また当博物館が所蔵するマルセル・デュシャンの「大ガラス」とデュシャン評論の著作がある宇佐美の作品が同じ空間に展示されているのを鑑賞できる点も印象深い物でした。
美術作品の遺棄とアーカイブによる保存の問題
全国各地に新設美術館が続々と開館し、開設地域ゆかりの作家コレクションや寄贈作品などの蒐集活動が活発になっています。
また近年多発する災害にそれら作品庫が被害に遭うケースもでてきています。
美術館開設準備室と作品収蔵庫が仮設であった場合など、希に寄贈作品が誤って遺棄されたり所在不明になる場合もあります。
これらの悲しい事故は、「正確な目録の作成、作品写真の撮影、保管場所の同定、仮収蔵図録の作成」などの作業を経ていれば、ある程度予防することが可能なのです。
作品リストと画像アーカイブの整備、現物作品の同定を進め記録していくことはとても意味のあることです。
今回の展示会を通じて感じた「アーカイブとして残す大切さ」
私たちが美術館やギャラリーまたは作家様個人からの依頼で図録制作を進める場合も、作品リストと画像アーカイブの整備、現物作品の同定の作業はとても大事な作業になります。
制作を進めるアートプロデューサーもカメラマンも文化財を扱っているという神妙な心構えで、担当学芸員様や作家様の意図を汲んで作業を進めていきます。
このようにして図録が出来上がると、自然と整備された「作品リスト、作品画像、保管場所の同定」といったアーカイブ化に必要なデータが揃っていきます。
図録を作るメリットには「文化的価値を評価し、後世にきちんと伝え、残す」だけではなく、「関わるスタッフ間のアーカイブ共有」という見えない効果もあるようです。
・関連資料のリンク
・東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 駒場博物館 | 宇佐美圭司 よみがえる画家 展
・美術手帖 | 宇佐美圭司の巨大絵画を廃棄。東京大学と大学生協が謝罪
・宇佐美圭司《Laser: Beam: Joint》(1968年)/ Usami Keiji’s “Laser: Beam: Joint” (1968)
・関連サービス:美術印刷「美巧彩」