去年、SDGsが大きな話題になったこともあり、製造業の世界でもこれまで以上に環境に配慮した取り組みが求められています。
印刷業界でも、かつては生産能力を上げるために有害な化学物質を使っていたこともありましたが、技術が進化した今は、効率も品質も下げることなく環境に優しい印刷方法を実現しています。
今回はそんなエコフレンドリーな印刷技術の中でも「ノンVOCインキ」を中心に解説していきます。
VOCの削減は印刷業界にとっての課題
VOCとは揮発性有機化合物(volatile organic compounds)の略で、これは炭素などが化合してできた空気や水中に溶ける性質を持つ物質という意味です。
VOCに含まれる炭化水素などが太陽光にあたるとエネルギーが増加して、酸化作用の強い光化学オキシダントという物質を生み出します。
これが酸性雨や水質汚濁、光化学スモッグなどの原因となり、人体や環境に多大な悪影響を及ぼします。
VOCによる健康被害には吐き気や頭痛といったものだけでなく、がんを引き起こすリスクの増加などが挙げられます。
製造業にとってVOCの排出をおさえることはかなり難しく、印刷業でもVOCをいかにおさえて印刷するか兼ねてから技術改良が行われてきました。
特に印刷インキの製造はVOCが発生しやすい工程で、自動車製造業や建設業などと共にVOC削減に向けた取り組みを求められていました。[注1][注2]
どうして印刷でVOCが用いられたのか
VOCの発生源はインクや塗料に含まれる石油系溶剤です。
石油系溶剤は顔料と樹脂を混ぜ合わせるために、古くから印刷インクや塗料に用いられてきました。
印刷インキには200種類以上のVOCが含まれていますが、主に含まれているのは以下の4つの物質です。
- トルエン
- 高沸点溶剤
- 酢酸エチル
- メチルエチルケトン
これらのVOCの発生量には印刷技術によっても多少の差があり、比較的特殊グラビア印刷がVOCの発生量が多いといわれています。
特殊グラビア印刷はプラスチックフィルムなど紙以外の素材に銅メッキ製の版で印刷する方法です。
撥水性の強いプラスチックに顔料をしっかり付着させるには、油性の溶剤を印刷インキに多く含ませるのが効果的です。
そのため、特殊グラビア印刷で使われる印刷インキは溶剤が多く含まれており、これがVOCが出やすい理由です。[注3][注4]
かつてはインクに含まれる石油系溶剤が十分蒸発されないまま印刷物が出回り、流通や小売の過程でVOCが空中に放散されることもあったようですが、現在は規制も厳しくなり印刷工場などでは出荷前に印刷物を乾燥させて予め石油系溶剤を排出させる設備が導入されています。
また、石油系溶剤を使用しないことでVOCを出さない印刷インキも誕生しています。
植物由来の材料を使った「バイオマスインキ」
バイオマスインキはVOCの原因である石油系溶剤の代わりに、米ぬかや再生大豆油など植物油など自然由来のものを抽出して作られたインキです。
乾燥したインキの重量のうち、バイオマス成分が10%以上占めているものは、一般社団法人日本有機資源協会からバイオマスマークの使用が認められます。[注5]
こうした植物資源を利用した印刷インキは、1970年代米国で研究が始まりました。
当時、オイルショックによる石油価格の高騰を受け、石油系溶剤を使ったインキの代替品として作られたのが大豆油インキです。
1987年には商業印刷での利用が始まり、現在では米国内の大手新聞の9割以上が大豆油インキを使用しています。
そのためバイオマスインキは石油価格の変動を受けないため、コストが安定するのもメリットです。
石油系溶剤がほぼゼロの「ノンVOCインキ」
石油系溶剤の含有量を1%未満におさえたものはノンVOCインキと呼ばれています。
植物性インキよりもさらに環境に配慮した印刷インキであるノンVOCインキを利用して印刷された製品には、その証として下図のノンVOCマークを添付することができます。[注6]
環境にやさしいインキでエコな印刷を実現
環境問題への関心が年々強くなっている昨今、VOCを出さない印刷インキはエコフレンドリーな印刷物になくてはならないものになっています。
日常生活のありとあらゆるところで見かける無数の印刷物、バイオマスインキやノンVOCインキを使うと大幅なVOCの削減につながり、環境破壊や公害のリスクも抑えられるでしょう。
他にも東洋美術印刷ではあらゆる視点で環境に配慮した印刷事業を展開しています。
また別の記事で他の取り組みも説明していきたいですね。
・関連資料のリンク
[注1] 一般社団法人日本印刷産業連合会:「印刷産業におけるVOCの使用・排出抑制の現状」
[注2] 環境省:「揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制制度について」
[注3] 全国グラビア協同組合連合会:「環境にやさしいグラビア印刷を目指して」
[注4] 公益社団法人日本印刷技術協会:「フィルムへの印刷はなぜグラビアなのでしょうか?」
[注5] 東洋インキ:「植物油インキマークとは?」
[注6] 東洋インキ:「ノンVOCインキマークとは?」
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