1997年に京都議定書が策定されて以来、世界中でCO2削減の取り組みが行われてきました。
欧米などの先進国ではCO2削減に成功していますが、世界全体で見てみるとCO2の発生量は年々増加しているのが現状です。
こうした事態を受けてカーボンニュートラル実現に向けた動きが世界中で見られるようになり、国内でもあらゆる業界でCO2削減・脱炭素化への取り組みが行われています。
そこで今回はカーボンニュートラル実現に向けた国内のあらゆる業界の動きについて紹介します。
政府が提唱した「カーボンニュートラル宣言」とは
2020年10月、政府は2050年までにCO2を含めた温室効果ガスの実質的な排出量をゼロにする「カーボンニュートラル宣言」を発表しました。
カーボンニュートラルとは温室効果ガスの排出量と森林資源が吸収できる量が等しくなり、実質的に人類が生み出す温室効果ガスの量をゼロにするという考え方です。
世界各国の政府が21世紀内にカーボンニュートラルの実現を目指す一方、多数の企業も温室効果ガス削減に向けた取り組みを行っています。
2050年までに自社の使用電力を100%再生可能エネルギー由来のものに置き換えることを目指す企業によって結成されたRE100には、アップルやグーグルなどの大企業や日清食品や富士通などの日本企業が加盟しています。
ここからはCO2排出量の多いところを中心に、いろいろな業界でのカーボンニュートラル実現に向けた取り組みを紹介します。
製鉄業のカーボンニュートラルへの取り組み
製鉄業は最もCO2排出量の多い業種で、実際に産業全体で排出されるCO2総量のうち、製鉄業から出た量は4割を占めるともいわれています。
しかし鉄鋼は風力発電やEV車など脱炭素化に欠かせない製品や設備にも使われており、製造業が産業を維持させながら脱炭素化を推し進めることがカーボンニュートラル実現の大きなカギになっているといえます。
廃棄された鉄くずを加工して鉄鋼としてリサイクルする方法もありますが、それだけでは世界的な鉄鋼の需要を満たすことはできません。
そこで環境負担が少ない製鉄方法として水素による還元を用いた方法が現在注目されています。
製鉄のプロセスでCO2が大量に排出されてしまう原因は、鉄鉱石を溶かす際に用いられるコークスです。
コークスは石炭から不純物を取り除いた高純度の炭素の塊です。
高温で熱せられて鉄鉱石の酸素とコークスの炭素が結合してCO2として排出されることで、鉄鉱石が酸化されずに頑丈な鉄鋼の材料となります。
そこで石炭からコークスを生成する際に出るメタンガスを収集、内部に含まれている水素を鉄鉱石の酸素と結合してH2Oとして還元させることで、CO2の発生を抑えた製鉄プロセスが実現できます。
また燃焼時に出た排気ガスも、CO2を抽出して水素化させることでメタンガスの原料としてリサイクルすることが可能です。
この技術の研究はすでに国内で2008年から始まっていて、将来的に実用化により国内の製鉄所から出るCO2総量を30%削減できるよう目指しています。
農業のカーボンニュートラルへの取り組み
世界中で発生している温室効果ガスのうち、4分の1は農林業から排出されています。
特に家畜の排泄物などに含まれるメタンなどの物質は、CO2よりも温室効果が高く発生を抑制させようとする試みが世界中で行われてきました。
近年では家畜を飼育していれば絶対に発生するメタンを減らすのではなく、エネルギー源として活用する動きが見られています。
2022年5月、北海道の穀倉地帯である十勝平野の鹿追町に水素電池自動車専用の水素ステーションが設置されました。
まず町内にあるバイオプラントに家畜の排泄物や一般家庭から出た生ごみを集積させて、発酵させてバイオガスを生成します。
バイオガスに含まれるメタンから化学反応により水素を生成させて燃料に加工して水素ステーションで提供しています。
発酵時には消化液が発生し有機肥料の材料として活用することもできます。
乳牛1頭が1年間で出る排泄物からは、水素電池自動車が1万km走れる分の水素燃料が作れるため燃料としての実用性も申し分ありません。
現在、鹿追町では町役場やJAなどの保有車両として計19台の水素電池自動車が導入されています。
この取り組みが評価され、鹿追町は昨年環境省から「脱炭素先行地域」として認められました。
また近年ではCO2に含まれる炭素を農地などの土壌に貯留させる「農地土壌炭素貯留技術」の研究も進められています。
たい肥や腐葉土などの有機物が土壌に混ざると微生物により分解されますが、炭素の一部は分解されずにそのまま土壌に残留します。
土壌中に含まれる炭素が増えることで、大気のCO2濃度を減らせるだけでなく作物の養分として成長を促進させる効果も期待されています。
航空業のカーボンニュートラルへの取り組み
数百トンもある巨大な機体を長時間浮遊させて移動するため、飛行機は膨大なエネルギーを消費しており、その分CO2排出量もかなりのものとなります。
飛行機で1キロ移動した場合、1人あたりのCO2排出量は102gで電車移動の場合より8倍以上あるといわれています。
世界全体のCO2排出量の3%は飛行機から発生しているともいわれ、近年では航空業界でも脱炭素化に向けた取り組みが行われています。
特に業界全体で研究が進んでいるのが、SAF(持続可能な航空機燃料)の導入です。
従来のジェット燃料は原油を精製してつくられるのに対して、SAFはバイオマス燃料や廃油などの再生可能エネルギーを用いており、使用済みの食用油などの分子を水素と反応させて分解することで作られるHEFA(水素化処理されたエステル・脂肪酸類)や、大気中のCO2を水素と結合させて燃料を生成するPTL(パワートゥリキッド)などの種類があります。
SAFはジェット燃料と比較して、CO2の排出量を50%〜90%も抑えられるといわれています。
国際航空運送協会は2050年までにSAFの生産量を年間約4.5億キロリットルまで増やす必要があると公表しており、航空会社や学術機関などが連携して世界的な実用化に向けて研究を進めています。
日本航空では、東京からニューヨークに向かう定期便で一週間、試験的に燃料の一部にSAFを使う試みが行われ、将来のSAFの全面的な導入に向けた動きが国内でも見られています。
企業がカーボンニュートラル実現のために取り組めること
企業のブランドイメージ向上のためにカーボンニュートラル実現のために何か始めてみたいけど、大がかりなものはお金とか労力とかかかりそう…という人も多いでしょう。
しかし企業として温室効果ガスの排出量削減のためにできる施策は数多くありますので、まずは無理なく取り組めそうなものを見つけてそこから始めてみるのがおすすめです。
再生可能エネルギーを採用してみる
もし企業が工場や物流センターといった大規模な施設を保有している場合、敷地内に風車やソーラーパネルなど再生可能エネルギーを使った発電設備を設置する方法が挙げられます。
安定して電気を供給できるようになれば施設の光熱費カットにつながるだけでなく、急に停電が起こった時のための予備電源としても活用できます。
EV車両を社用車として利用してみる
社用車をEV車に置き換えることも、脱炭素化の取り組みとしては効果的です。
一方でEV車は車種によってエネルギーの補充時間や航続距離などが従来の自動車に比べてデメリットとなりやすいため、置き換えによりかえって不便になることはないか考慮しておきましょう。
カーボンオフセットを導入する
カーボンオフセットは企業や個人がCO2を排出する分の枠組みを排出権として購入し、その費用を植林活動による森林保護などCO2抑制のための支援に充てることで発生した分のCO2を相殺(オフセット)するという考えです。
日本国内にも多くの企業でカーボンオフセットによるカーボンニュートラル実現のアシストを行っています。
工場やオフィスの省エネ化を徹底する
工場やオフィスでの電気使用量を減らして省エネに努めるのも、カーボンニュートラルのための取り組みといえるでしょう。
極端に消費電力をおさえようとしてエアコンやエレベータを禁止する必要はありません。
トイレなどの電気をこまめに消したりオフィスの空調のフィルターを定期的に清掃したりするだけでも立派な省エネとなりますよ。
オフィスで出るごみや廃棄物を分別する
会社から出るごみや産業廃棄物をしっかりと分別して出すことも、脱炭素化とつながります。
プラスチックなど焼却時にも埋め立て処理がされた後もメタンなどの有害な物質が出るごみは、なるべくリサイクルへと回されることで温室効果ガスの抑制につなげられるためです。
そのほかにもシンポジウムなどの場で脱炭素化に取り組む企業と意見交換したり、サステナビリティを意識してつくられたOA機器を購入したりというように、カーボンニュートラルに向けた取り組みはあらゆるところで行えます。
自分のところではどんなことができそうか、じっくり考えてみるのもいいかもしれませんね。
あらゆる業界で水素やバイオ燃料による脱炭素化を目指している
カーボンニュートラルの2050年の実現までタイムリミットはおよそ25年ほどです。
年々増えているCO2排出量をおさえるため、あらゆる業界で経済活動を維持させながら脱炭素化を図る試みが行われています。
特に脱炭素化を促進するうえで要となるのが、水素エネルギーやバイオエネルギーの利用です。
東洋美術印刷をはじめとする印刷業界でも、工場の省エネ化や有害物質を発生させない技術の開発・導入など様々な形でサステナブルな社会の実現に貢献しています。
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【ストリーミング動画】 カーボンオフセットの仕組みについて 脱炭素化と経済活動を両立することができる取り組み、カーボンオフセットの仕組みについてSDGsの観点から解説します。 | |