印刷における化石燃料の使用を減らすには何が重要?

SDGs

産業革命以降、私たちは豊かな生活を支えるために石炭や石油などの化石燃料を大量に消費してきました。

しかし、1990年代ごろよりCO2をはじめとした温室効果ガスが地球温暖化を引き起こしていることが地球規模での問題となり、今もなお脱炭素の取り組みが行われています。

脱炭素化のために化石燃料の使用をできる限り削減する動きは、印刷業界でも見られています。

今回は印刷物がたどる資材の調達から廃棄処分までの工程を通して、化石燃料の利用やCO2の発生をおさえるためにどのようなことが重要なのか見ていきます。

化石燃料の利用を「材料の調達」から減らすには

VOCが含まれていない印刷インキを使用する

一般的な印刷インキには顔料と樹脂を溶かして均等に混ざり合うように、石油を加工してできたトルエンやベンゼンなどといったVOC(揮発性有機化合物)が含まれています。

VOC(揮発性有機化合物)が大気中に蒸発すると太陽光に反応して、光化学スモッグなどを引き起こす可能性があるため、印刷後の乾燥の工程でVOCを蒸発させて廃棄ガスとして処理する必要があります。

これによりVOCの発生を抑制できる一方、インキの乾燥や排ガスの燃焼で電力を大量に使う分、化石燃料の消費につながりやすくなります。

VOC燃焼によるCO2の発生をおさえるには、そもそもVOCを含んでいない印刷インキを導入するといった方法があります。

石油系溶剤のかわりに大豆油など植物性の油脂由来の溶剤を用いた植物インキは、現在教科書や食品のラベルなど身近なところで多く使用されています。

また植物インキは原料の植物が育っていく中で光合成により大気中のCO2を吸収するため、印刷インキに用いることがカーボンオフセットにもつながっているともいえます。

どうしてもVOCが出てしまう場合は、廃液を焼却処理した際に生じたエネルギーを熱源として再活用するといった取り組みも見られます。

 

湿し水を使わない水なし印刷を導入する

湿し水は版の印刷しない部分にインキが付かないよう塗布して印刷時の品質を高く保つため、真水に化学薬品を添加したものです。

撥水性などを高めるために化学薬品が湿し水には含まれていますが、その効果を安定させるため湿し水は一定の温度に保ちながら冷却循環で管理することが多いです。

湿し水の管理には多大な電力を要するため、結果として工場全体の消費電力も増えてしまいます。

水なし印刷とよばれる湿し水を使わない印刷技法を導入することで、印刷の過程で生じる化石燃料の消費をおさえやすくなります。

さらに湿し水の廃棄で生じる化学物質が河川に溶け込んだり大気中に蒸発したりして環境や人体への悪影響のリスクもおさえられます。

また同じく廃液の発生を抑える手段として、印刷前に現像を行わない無処理版を使った印刷も挙げられます。

こちらも現像処理の工程で生じる電力消費をカットできるため、化石燃料の使用の削減につなげられます。

 

化石燃料の利用を「印刷・製本」から減らすには

省エネ性の高い印刷機材を導入する

印刷工場では刷版・印刷・乾燥・製本など様々な工程をそれぞれ別々の大規模な機械で行うため、どうしても消費する電力も膨大になってしまいます。

資源エネルギー庁が2017年に行った統計調査によれば、印刷業界の売上高100万円あたりの電力使用料は18,692円と鉄鋼業や化学工業などよりも高く、製造業の中でも印刷業は電力を大量に使うことがうかがえます。

こうした背景もあり、近年ではインバータ制御装置を改良させるなど省エネ性を向上させたモデルの印刷機を導入する例も見られています。

もちろん機材を買い替えるだけではなく、使わないときに電源をこまめに切るといったちょっとした行動も省エネでは大事です。

また気温や湿度の変動が印刷の作業効率や仕上がりに影響することもあるため、印刷工場では空調による温度管理を徹底しています。

こうした空調や照明などの工場の設備にも電力がたくさん使われているため、工場全体での使用電力を計測する装置を取り入れたり、LED照明など電力消費の少ないものに取り替えたりといった対策も効果的です。

 

再生可能エネルギー由来の電力を使う

電力の消費量をあまり削減できない場合、太陽光や風力など再生可能エネルギー由来の電気を活用するのも手です。

印刷工場は広大な敷地を確保して作られているため、建物の屋上などにソーラーパネルを設置して自分たちが使う電力を自らまかなっているところも少なくありません。

日本でもこのような太陽光による発電設備が備わっている印刷工場は多く、中には余剰分の電力を電気会社に売却しているところもあるほどです。

また自社で作っただけでは賄いきれない分は、風力発電などのクリーンエネルギーを供給している電力会社から購入するといった事例も見られます。

このように発電設備を持つことは脱炭素化につながるだけでなく、災害やトラブルなどで急に電気が供給されなくなった場合の万が一の備えにもなります。

ほかには印刷作業で出た廃液などを焼却処理したときに発生する熱エネルギーを、工場内の電力などに再利用するコジェネレーションシステムを取り入れているところも多く、印刷で出た廃棄物もできるかぎりの形で有効的に活用されています。

 

化石燃料の利用を「輸送・消費」から減らすには

排気ガスの多い車両の利用を減らす

資材や印刷物を運送する際に、より排気ガスの発生量が少ない交通手段を代用するのも効果的です。

一般的な自家用車に比べると運搬に用いられる大型トラックは、一度にかなりの長距離を走行したり高速道路を通ることで加減速の間隔が長くなったりするため、バッテリーの充電や発電が難しくハイブリッド車やEVの開発が難しいといわれていました。

しかし2018年ごろには国内の大手自動車メーカーがAIによるハイブリッド機能を搭載したトラックを開発しており、近い将来には電気や水素などで走るトラックも実用化されるかもしれません。

一方で自動車中心の輸送ルートを鉄道や船舶などのほかの交通手段に置き換えるモーダルシフトを取り入れてCO2の発生を抑える取り組みも見られています。

実際に多くの会社で導入されているシステムで、印刷業界ではある輸送会社が東京から九州までの印刷物の運搬手段をトラックから船舶に替えている事例があります。

 

環境にやさしい素材からできた梱包材を使う

印刷物を輸送する際に使う梱包材にも、化石燃料の利用を減らすためのポイントがあります。

ほこりや湿気などから守ってきれいな状態で届けるため、印刷物の運搬にはカートン(段ボール)やプラスチックなどいろんな種類の梱包材が使われています。

しかし日本全国で様々な印刷物を四方八方に配達することで毎日大量の梱包材が使われ、その製造や処理の過程で化石燃料が大量に消費されてしまっています。

また近年ではスマホアプリで個人で気軽にネット販売を始められるようになったこともあり、梱包材自体の需要も増加しているといわれています。

こうした状況を受けて2024年、国内の大手印刷会社ではフォトメディアの梱包材をプラスチックのものから紙のものに変更しており、化石燃料の消費量の削減に成功しています。

ほかにも繰り返し何度も利用できる梱包材や焼却してもCO2が発生しないパルプモールドの梱包材も開発されているなど、環境にやさしい梱包は今後もますます進化していくでしょう。

 

CO2削減のためには発生量の把握が重要

化石燃料の利用を抑制する最終的な目的は、CO2の排出量の削減によるカーボンニュートラル実現です。

印刷物を製造する工程のどこでどれほどCO2が出ているか分析すれば、電力や燃料の消費をおさえる手だてを考える上での手助けとなります。

サプライチェーン全体で発生したCO2の量はScope3という数値で割り出すことができますが、他にも木材製品に関していうと「ウッドマイレージ」というものもあります。

ウッドマイレージは木材を産地から最終消費地まで運搬した際に発生するCO2発生量を運送距離などから産出したもので、同じく食料品の運送により出るCO2を指すフードマイレージをもとに生まれた概念です。

 

化石燃料から出たCO2を「オフセット」するのも手

印刷作業を行うためにはある程度の電力の利用が必須ですし、それによるCO2の発生も避けられません。

どうしても発生してしまったCO2の分を、カーボンオフセットで相殺するのも一つの手といえます。

カーボンオフセットは経済活動などで発生したCO2の発生分に応じた額の排出権(クレジット)を購入して、植林活動などの自然保護の取り組みを間接的に支援することです。

主な排出権の種類としては政府が運用しているJ-クレジットというものがあり、印刷業界でも多くの会社でJ-クレジットによるカーボンオフセットを使って印刷を発注できるようになっています。

 

化石燃料の利用を減らすための「省エネ」

石油や石炭などの化石燃料の利用を抑制すれば、CO2の削減につながりカーボンニュートラルの実現を支援することとなります。

印刷物の製造過程においては、原材料が生産されてから製品が最終的に処分されるまで様々なところで化石燃料由来の電力やガソリンが使われています。

工場では電力消費の少ない機械を導入したり印刷手法を変えたりすることで、それ以外ではモーダルシフトを取り入れたり環境への負担に優しい梱包材を使ったりすることで電力消費やCO2の発生を減らせる可能性があります。

それでも出てしまった化石燃料由来のCO2については、カーボンオフセットなどを活用して埋め合わせするのもおすすめです。

 

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【ストリーミング動画】カーボンオフセットの仕組みについて【ストリーミング動画】
カーボンオフセットの仕組みについて

 
脱炭素化と経済活動を両立することができる取り組み、カーボンオフセットの仕組みについてSDGsの観点から解説します。
 

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