保険や証券などの金融業界は特に顧客との信頼関係が重要です。金融商品は食料品や日用雑貨などと違い実物を目視できないため、契約のメリット・デメリットを把握しづらいからです。
かといって商品の内容を顧客に一通り説明しただけでは顧客も一度に全ての情報を把握しきれず中途半端に知見が広まる可能性も高く、場合によっては逆に商品に対してリスクへの不安が強まって会社そのものへの信頼も弱まってしまうおそれもあります。
顧客に信頼されるためには、商品のメリット・デメリットをすべて分かりやすく伝えることが重要です。
そのために大きな役割を果たすのが金融商品の内容について解説しているパンフレットやホームページなどの情報提供ツールです。
今回は信頼性のある情報提供にとって重要な「景品表示法」の事例とともに金融商品にとっての見やすいデザインの重要性をお話しします。
景品表示法違反から見る「情報デザインの誠実さ」
2023年3月、国民生活センターが消費者庁に対して家電メーカーへの指導を要請するというニュースがありました。
糖質カット機能があるとうたっていた炊飯器の機種が、実際には広告の表示内容ほどカットできないことが調査で分かり景品表示法上、問題のある表現だとみなされたため表示改善の指導が要請されたのです。
上記のような虚偽のある表記は極端ですが、複雑な構造のものが多い金融商品の場合は単純な商品概要の説明だけでは顧客と会社側で認識のずれが生じやすくなります。
そのため特に顧客に提供する情報に「誠実性」が求められるのです。
「過剰な強調表現」は誤認を招きやすい
宣伝広告などにより誤認が生じる要因として、商品やサービスの良い面を過剰に表現してしまいほかの情報を認識しづらくなっていることが挙げられます。
社会心理学にプライマリー効果というものがあります。
人間は最初に目に映った情報でその印象が決まってその後の評価にも影響しやすくなるという現象なのですが、実際第一印象でそのものの印象が大きく決まることって多いですよね。
先ほどの事例でもまず「糖質カット」というワードが目に入って数ある購入候補から商品を買ってしまった人が多く出たでしょう。
反対に金融商品のように誰にでも分かりやすいセールスポイントが明確にはないものだと、パンフレットを読んでも情報が分かりづらく、何に注目したらいいか分からないため印象に残りづらく乗り気にならない人が出やすいです。
さらに株価や為替の変動による損失や投資詐欺などの犯罪被害のリスクを持たれてしまうとマーケティング・営業のハードルはさらに高まります。
過去には人々の不信感がふくらんだせいで金融機関の経営状態に影響を与えたことも。
何でもない雑談がわずか数日で広まって、一企業の経営状況に影響を及ぼしたと考えると恐ろしい話ですね。
SNSが普及しきった現代は当時より遥かにデマが広まりやすいことからも、情報を誠実に提供して顧客にきちんと理解してもらう重要性が分かるかと思います。
少しでも誤解をまねく表現は絶対にアウト
普段スマホアプリや動画サイトなどを閲覧していると、よくダイエット食品や借金整理など明らかにあやしい広告を見かけることも多いですよね。
その中には先ほど述べた景品表示法に違反しているのではと感じるものも少なくありません。
景品表示法を守っていない「不当表示」としてみなされるのは、以下の3つです。
・優良誤認表示 | 商品の品質や効能が実際より優れていると見せかける表示。先ほどの炊飯器の例などが挙げられます。 |
・有利誤認表示 | 商品価格や特典などが実際より有利だと見せかける表示。セール期間が終了していながら実施中と宣伝する等の例があります。 |
・打消し表示 | 商品内容で提供する側に都合の悪い情報をわかりにくくする表示。契約に関する例外的な条件をかなり小さく記載する等の例があります。 |
他にも近年、某飲食チェーンで多くの店舗の在庫にないにもかかわらず、その商品を大々的に宣伝していた事例で話題になった「おとり広告」も不当表示の類に入ります。
このように知名度の高い大手企業でも景品表示法に違反してニュースになることはこれまでも結構ありました。
つまり業種や規模などに関係なく、どんな企業や団体でも顧客に注目してもらおうと情報を盛りすぎて不当な表示をするあまり、顧客からの信頼が悪化するリスクもありえます。
必要な情報が一通り明記されていたとしても、少しでも顧客が誤解する可能性があれば情報デザインとしては好ましくありません。
意図していなくても不当表示となって しまうことも
情報はあるがままをそのまま正直に伝えればよいというわけでもありません。
専門家には理解できても、一般消費者には伝わらない情報になっている場合があるからです。
情報を受け取る側の目線に立って、「より多くの人に情報が伝わるデザイン」を心がけることが重要です。
情報を伝えたい相手が高齢者だった場合、デジタル機器のリテラシーや視力の低下を考慮せずに情報を伝えようとすると、表示はしていても受け取られない情報になってしまうこともあります。
また、色弱者の色の見え方を考慮せずに色分けした情報を伝えようとしても、同じく受け取ることが出来ない場合があります。
打消し表示自体が禁止されているわけではありませんが、その表示が情報の受け取り側にとって受け取れる表示になっているかどうかに気を配る必要があります。
高齢などによる色覚の変化についてはこちらの記事もご覧ください!
まずは情報デザインの「穴」を第三者にチェックしてもらうのが大切
景品表示法上不当表示とならないような「伝わりやすい情報デザイン」を実現させるには、何よりも第三者から見てその情報デザインが問題ないと評価してもらうことが重要です。
特に普段からその製品と接していない方が評価することで、「知らない人からしたらここが分かりづらい」というような自分達からでは気づけないような改善点が見つかりやすいからです。
第三者に情報デザインを審査してもらって改善点を見つけるメソッドの1つとして、「UCD(ユニバーサルコミュニケーションデザイン)によるデザイン改善」というものがあります。
科学的な分析やユーザーテストなどを通じて情報デザインを評価して、改善点を見つけるというものです。
余裕があればこうした専門的な機関の手を借りてみるというのもいいかもしれませんね。
「情報の伝えやすさ」は第三者からの声 を受けて改善するのが吉
金融商品は顧客にとって大切な財産を預かってもらって運用している以上、きちんとしたディスクロージャーがないと顧客は不信感を抱きかねません。
でも誰にでも伝わる情報デザインって老化による色の見え方の変化とか色々なことを考慮しないといけないため、ある程度の知識や技量がないと実現できなさそう…。
そのような時はユーザーテストなどで第三者に評価してもらい、改善案を考える土台として活用するのが肝要です。
子供や老人などあらゆる世代のペルソナから意見を募って、より優しい情報デザインの実現を目指していきましょう。
・関連資料のリンク
[注1] 消費者庁|景品表示法
・関連資料のダウンロード
わかりやすいデザイン9つのチェックポイント 「伝わらない情報」の問題は媒体のグラフィックデザインが引き起こしている可能性があります。 この資料では、より多くの人に伝わるように情報デザインを改善するための9つのチェックポイントを紹介しています。 | |