今、日本中の企業でDXに向けた取り組みが行われています。
しかしDXを推進しているのは何も民間企業だけではありません。
全国にある小中学校でも教育水準の向上のためのDX施策が数多く行われています。
そこで今回は学校が行っているDX施策の中でも「デジタル教科書」について見ていきたいと思います。
今後本格的な活用が始まる「デジタル教科書」
ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)教育の要ともいえるデジタル教材は、紙媒体の教科書・問題集・資料集などの教材と同じ内容をPDFなどのデジタルファイルにまとめたもので、2020年4月に文部科学省により新しい学習指導要領が施行されて以降、全国の学校で導入が始まっています。
デジタル教科書は、学校から支給されるタブレット端末や電子黒板などの大型ディスプレイに表示させて使うものが一般的ですが、そのほかにも視覚や聴覚に障害のある生徒や学習障害の生徒向けに開発されたデジタル教科書など、専用のコンピュータを使って利用するものもあります。
デジタル教科書だからこそできることも多い
デジタル教科書には紙の教科書にはない機能が多く搭載されています。
【デジタル教科書の主な機能】
- ページの拡大・縮小
- テキストの音声読み上げ(音量・速度の調節も可)
- 背景やテキストの色の変更
- 漢字のルビ振り
- 音読した音声の録音・同期
- 図形の回転・展開
- 動画・アニメーションの再生
これまでの教材は紙面に書かれていたことを一方的に読み取るだけでしたが、デジタル教科書はある程度自由にテキストや画像などを操作できます。
表示された内容をある程度自由にカスタマイズできるので、デジタル教科書には授業で習ったことがより定着しやすくなる効果が期待されています。
デジタル教科書ならではの4つのメリット
① 授業内容への興味を促進させる
理科や社会は動画や音声の資料により、より感覚的に授業内容を理解しやすくなります。
特に子供が興味を持ちやすい生物や歴史などのジャンルに関しては、視覚的なインパクトを出しやすく授業を通じて生徒の知的好奇心を生み出すきっかけになりやすいです。
② 自ら考える習慣を身につかせる
デジタル教科書は画面上に自由に書いたり消したりできるのも特徴です。
そのため生徒は分からないことをメモしたり、答えを出すまで何度も書き直したりできます。
正しい知識が定着するまで試行錯誤することで、授業内容について自ら書いて考える習慣を身につかせることができます。
③ 生徒の学習状況が把握しやすくなる
これまでは各生徒がどれだけ授業内容を理解できているか調べるのは容易ではありませんでした。
しかし生徒のデジタル教科書を教師側の端末に連携させてチェックすることで、生徒がどこでつまづいているか一目で判断できるほか、授業の理解度にあわせて適切な難易度の問題を提供しやすくなります。
④ 教師の作業負担を大幅に減らせる
デジタル教科書を導入することで、練習問題の製作や板書、テストの採点作業といった教師側の作業も大幅に減少できます。
空き時間を生徒へのより細かなサポートや、教師同士での相談などに充てることで、無駄な作業時間を減らすだけでなく、授業自体の品質も上げられるようになります。
解決すべきデジタル教科書の課題点
まだ導入しはじめたばかりのデジタル教科書、全ての教師や生徒が問題なく使いこなせるようになるには解決すべき課題点も少なくありません。
① 無線ネットワークのインフラ整備
生徒や教師の間でデジタル教科書を連携させるためには、教室だけでなく学校の敷地全体に安定した無線ネットワークを整備することが重要です。
文部科学省では2019年に全国の生徒への通信インフラの提供を目指す「GIGAスクール構想」を始めているものの、自治体によって対応に差が出ているのが現状です。
② 個人情報や重要情報のセキュリティ管理
DX化された教育現場ではクラウドネットワークが日常的に活用されるため、生徒の個人情報や機密情報のセキュリティ管理は大きな課題となります。
2021年には1クラスの生徒全員の端末に単一のパスワードを設定したことで、生徒が別の生徒の端末に不正アクセスするトラブルも発生しています。[注1]
③ デジタル教科書としての共通規格の制定
現在あらゆる企業がデジタル教科書を開発しています。
しかしまだデザイン等で共通規格がないため、複数の教材を併用する時に使い方がバラバラで混乱を生じてしまうおそれがあるといわれています。
教師や生徒がストレスなく使いこなせるようユニバーサルデザインに則った共通規格の制定が求められています。
④ 実体験での学習内容との連携
デジタル教科書が導入されても理科の実験、調理実習、社会科見学といった実際の体験を伴う学習がなくなるわけではありません。
リアルで体験して学ぶことをデジタル教科書と連携できれば、リアルとバーチャルの両方の利点を生かしてより効率的な教育カリキュラムを生徒に提供できるといえます。
デジタル教科書の今後の”進化”に期待!
教育のDX化においてデジタル教科書は生徒の知的好奇心を刺激させたり、生徒が自ら考える姿勢を作るきっかけを与えたり、教師の業務の負担を減らしたりとあらゆる面で効果を発揮してくれるといわれています。
しかしデジタル教科書の強みを十分に活かすには、ネットワークの整備やセキュリティの管理などまだ解決すべき点もあります。
いずれにしろ教科書のデジタル化は、紙への印刷からデジタルコンテンツの配信という印刷の歴史の大きな変化を象徴する出来事となりそうですね。
・関連資料のリンク
[注1] 東京新聞「いじめ温床のタブレット端末、パスワードは「123456789」」
・関連資料のダウンロード
オープンキャンパスや塾の体験入学で活躍するVR活用方法 本資料は、3Dカメラで撮影した空間をWebコンテンツ化するサービス「VR360」の説明と、オープンキャンパスや塾の体験でどのように活用できるかのアイディアを掲載しています。 | |