日本の製造業にとって大きな課題となっているのが、ベテランの職人たちが持っている技能やノウハウをどう若手に継承すべきかということです。
技術継承そのものは生き残りのために必須不可欠なものだと認識していても、実際にはどのようにやるのがベストなのか分からずに悩んでいるという企業も少なくありません。
そこで今回は技術継承を行う上でネックになっている要因をもとに、近年話題になることの多い「DX」でどう解決できるのか紹介していきます。
日本のものづくりの現場の大半が技術継承に悩んでいる
国内の製造業者の多くは、熟練した技術者が持つ確かな腕や経験によって支えられている部分が大きいといえます。
一方で長年培ってきた独自の技術やノウハウをどのように次の世代へと継承すべきか、現在多くの製造業者が頭を悩ませています。
厚生労働省が2019年に行った調査によれば、日本全国の製造業者の中で「技術継承で何かしらの問題を感じている」と回答した割合は86.5%にも上っています。[注1]
技術継承が順調にできれば、新人の技術習得の期間が短縮しやすくなり生産効率も向上しやすくなります。
しかし技術継承がうまくいかなければ、スキルのある職人が退職した場合の生産性低下などのリスクは免れません。
せっかく誇れるような素晴らしい技能があっても技術継承ができなければ、業界内での生き残りが難しくなります。
ここからは技術継承におけるより細かな問題点を、いくつか見ていきましょう。
問題点①:マニュアルなど後継者に伝えるための仕組みが整っていない
一般社団法人大阪中小企業診断士会が2017年に行った調査では、技術継承がうまくいっていないと答えた製造業者のうち、半数以上がその理由を「技術伝承のノウハウ・仕組みがない」としています。[注2]
技術をきちんと伝えるためには、文章や画像など形に残るものをつくって後継者がいつでも自由に振り返りできるような仕組みを整えてあげないといけません。
しかし小規模の製造業者では、Officeなどを駆使してこのようなコンテンツを製作できるスキルのある方がいないことも多く、場合によっては高い費用を払って外注の業者につくってもらう必要も出てきます。
また一度作成したマニュアルも、何かしら業務内容が変わればその都度中身を更新しないといけなくなり、その分担当者の業務負担を増やすことになってしまいます。
問題点②:適切に技術を継承できる人材がいない
マニュアルだけでなく、技術をきちんと分かりやすく伝えられる人材がいないことも、技術継承を難しくさせている要因といえます。
いくら高いスキルを持っていたベテランでも必ずしも人にうまく教えられるとは限りませんし、むしろ人に教えるのが苦手な可能性も十分にあります。
例えば東大生にはもともと勉強が得意だった人が多く勉強が苦手な人の考え方が把握できないため、彼らにも分かるように勉強内容を教えられないという人は少なくありません。
これと同じことが製造業の現場でもあてはまり、ベテラン職人と若手の後継者の間で継承する内容がうまく伝わっていないと、結果双方が大きなストレスを感じる要因となってしまいます。
問題点③:ベテラン労働者側の負担が大きい
ベテランの労働者が若手に技術を教えるということは、通常の現場での作業だけでなく「後輩への教育」という新しい業務の負担がのしかかることになります。
技術継承のための時間設定は、ベテランの労働者の作業スケジュールに左右されやすく、現場が多忙な時期だと十分時間をかけられず若手があまり育たないまま技術継承が中断してしまう可能性もあります。
そのため技術継承のための人的・時間的なリソースを十分に確保できていないと、教わった側は個人個人によって習得したスキルにばらつきが生じやすくなります。
また後継者が十分に技術継承できていない状態に周囲が気づけないままベテランの労働者が退職して、現場に十分な技能がある人材がいなくなってしまうという事態すら起こりかねません。
こうした事態にならないよう、誰がどれぐらい技術を継承したか管理するのも一つの手ですが、その分新たな作業負担が大幅に増えてしまいます。
技術継承にこそDXの本領が発揮される
マニュアルなどの仕組みをデジタル化(DX)して整備してあげることで、技術継承をより効率よく実施できるようになります。
動画による技術継承と「スマートグラス」
DXによる技術継承の例として、動画コンテンツによるマニュアルが挙げられます。
動画なら手元などの細かい動きが分かりやすいだけでなく、分からないところを繰り返しチェックできます。
そのため言葉では伝わりづらい物事も、動画なら簡単に伝えやすくなります。
スマートフォンやスマートグラスなどのデバイスで動画を撮影すれば、映像を通して作業の様子を間近で確認できるようになります。
スマートグラスはカメラ、センサー、マイクなどの機能を備えたデバイスで、電巧社のRealWearやビュージックス・ジャパン社のM400スマートグラスといった製品があります。
メガネのように装着できるので両手を駆使する作業でも難なく撮影できるのが特徴です。
またスマートグラスには通信機能があるため、リアルタイムで離れた場所にいる技術者や専門家から連絡を取り合いながら作業することも可能です。
このようなデジタルデバイスはスマホやスマートウォッチのような感覚で使えるため、パソコンなどが苦手な方でも使いやすいといえます。
他にもゲームやアイドルなどエンターテイメント系のものに使われるイメージの強いARやVRも技術継承のためのコンテンツとして十分に活用でき、例としてAR技術によるデジタルツインを利用したサービスプラットフォーム「CareAR」などが挙げられます。
従来の紙媒体のマニュアルでは伝わりづらかった職人の手さばきも、DXのおかげでだいぶ継承しやすくなるかもしれませんね。
製造業の技術継承の新たなかたち「DX」
製造業においてベテラン職人により育まれてきた技術やノウハウは、いわば宝であり大きなアイデンティティといえます。
しかし専門性の高い内容や感覚的な事柄も多い彼らの知見を、どう若手や外国人の労働者に伝えたらいいのか多くの企業にとって大きな課題となっています。
さらに製造業者には中小規模の企業も多いため、技術の伝承に費用や人材を十分に割けられないところも少なくありません。
こうした問題を解決する方法として、デジタル機器を駆使したDXによる技術継承の仕組みが上げられます。
その一つとしてスマートグラスと呼ばれるメガネ型のデバイスがあり、熟練した職人の技を手元や目元から撮影してマニュアルとして共有できる機能が備わっています。
こうしたデジタルコンテンツを活用できれば、映像や音声で感覚的に技術を習得できるため、より簡単に技術継承ができるようになるでしょう。
・関連資料のリンク
[注1] 厚生労働省:平成30年度ものづくり基盤技術の振興施策「概要」
[注2] 一般社団法人 大阪中小企業診断士会:中小製造業における「技能伝承(継承)」の実態調査と提言
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